CMS Drupal の現状と今後の予測( 2018 年 6 月時点)
2018 年 6 月時点での Drupal の現状の整理と今後( 3 〜 5 年)の展開予測 をしてみました。
このあたりの認識をそのときどきで記録しておくと後々おもしろそうなので分析のエクササイズがてら書き残してみます。 英語圏も含めてこのタイプのまとめをしている人はあまりいないので、興味のある方にはおもしろい内容になっているのではないかと思います。
最初に、ここで述べる私の認識は今後変わる可能性があることをお断りしておきます。 というのと、ネガティブな意見が含まれるので「 Drupal 万歳!」な方は読まないようにしてください(笑)
著者の立ち位置と認識
最初に私の立ち位置と認識を明確にしておきます。
私は Drupal の利用者です。 Drupal の本体やモジュールに貢献したり Drupal Association に寄付したりしています。 本番環境で使ったことのある Drupal モジュールは 200-400 個程度、自分で書いたモジュールの数は正確に数えていませんがおそらく 100-200 個ほどです。 わりとたくさん使ってきましたが、現状は「 Drupal が最適なウェブプロジェクトは非常にかぎられる」と思っており、とりわけ最近の状況を見ると「自信を持って人におすすめできる」とはなかなか言えないと思っています。
さらに言うと、そもそも「どの CMS を使うか」はウェブプロジェクトの CSF (成功決定要因)ではないと考えているので、「どうしても Drupal を使いたければ使えばいいし、そうでなければ他のものを使えばいい」というのが現状の価値観です。
ということで、アクティブなコントリビュータとして Drupal の内部構造やコミュニティの状況をある程度理解している立場、かつ、わりと冷静な立場からの分析ができるものと思います。
では早速始めます。
目次
- Drupal の現状
- Drupal の今後の展開予測
- Drupal の未来を分けるポイント
Drupal の現状
まずは各種統計情報を通して Drupal プロジェクトの状況を見てみます。 すでによく知る方にとっては目新しい情報はありません。
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この記事を書いている時点で、 W3Techs が公開している CMS のシェアは次のとおりとなっています( CMS のシェアといえば W3Techs の情報を根拠とすることが一般的です)。
- WordPress 59.9%
- Joomla 3.1%
- Drupal 2.0%
- Squarespace 1.2%
- Shopify 1.1%
出典: Usage Statistics and Market Share of Content Management Systems for Websites, June 2018
Drupal は WordPress ・ Joomla! に次ぐシェア 3 番目に位置しています。
SimilarTech でも確認してみると、 2018 年 6 月時点のサイト数はそれぞれ次のとおりとなっています。
- WordPress: 27,423,434
- Joomla: 418,045
- Drupal: 1,002,834
出典: Content Management System Technologies Market Share and Web Usage Statistics
W3Techs でも SimilarTech でも WordPress は Drupal の 30 倍弱と似通った数値になっているので、当たらずも遠からずな数値だと考えてよいでしょう。 Joomla! のサイト数が Drupal よりも少なく出ていますが、このあたりは集計方法によるものかと思います。
稼働数トレンド
近年の稼働数のトレンドは次のとおりです。
出典: Usage statistics for Drupal core | Drupal.org
x 軸は週、 y 軸はサイト数です。太線は 10 週の移動平均です。
Drupal サイト数は、 2014 年頃までは右肩上がりで急速に増えました。 2015-2016 年頃にピークを迎え、そこから横ばいが続いています。 2018 年に入ってからは微減でしょうか。
改めて、世界中で 100 万以上ものサイトで Drupal が動いているのは驚異的です。 ウェブサービス型の CMS を含めても 100 万以上ものサイトを動かすプラットフォームはそう多くはありません。
Drupal 8 の普及速度
Drupal 7 と Drupal 8 の導入数を、リリース後の時間を揃えて比較すると次のとおりです。
出典: (上と同じ Drupal.org の統計ページ)
上にある線が Drupal 7 、下の線が Drupal 8 です。 x 軸の単位はリリース後の週です。 太線は 10 週の移動平均です。 Drupal 7 リリース直後のデータが得られなかった関係で、スタート週はリリース後 94 週という中途半端なところになっています。
普及速度に大きな差があることがひと目でわかります。
以下考察です。 Drupal 8 は、 7 からコードを大幅に書き直したのと、戦略的にエンタープライズ(大企業)をメインターゲットにしたので、導入数が減るであろうことは事前に予想されていたはずです。 Drupal を生み出し現在も Drupal のプロジェクトリードを務める Dries 氏は 2013 年に次のように言っています。
I think with small sites I'm not willing to give up on them but I think we just need to say we're more about big sites and less about small sites.
翻訳:
小さなサイトを諦めるつもりはありませんが、私たちは小さなサイトよりも大きなサイトに着目していると言うべきでしょう。
出典: Drupal 8: Re-architecting for world domination - Computerworld
同じ記事の中で Dries 氏は次のようにも言っていました。
"I really think we can say we've built the best CMS for enterprise systems," Buytaert said. "I really think so. Best architecture, most modern design. And I think we should claim that position. And I think we finally get there with Drupal 8... We're really ready to compete hard with the proprietary software vendors."
翻訳:
「私たちはエンタープライズシステムにベストな CMS を作ったんだ、と言えるようになると本当に思います。本当にそう思っています。ベストなアーキテクチャ、最もモダンな設計。私たちはそのポジションを主張すべきだと思います。また、 Drupal 8 でようやくそこに行けると思っています。私たちは、プロプライエタリ(企業製)のソフトウェアベンダーに対抗する準備ができています。」
この時点で Dries 氏(≒ Acquia 社)は「 Drupal の競合は WordPress ではなく Adobe や Sitecore である」という認識をしています。 その意味では Drupal 8 はまさに彼の意思どおりの発展を遂げたと言えるでしょう。
グラフに戻ります。 直近の動きを見ると、毎週およそ 1000-1500 個の Drupal 8 サイトが 新たに構築されています。 絶対数の伸びとしては堅調ですが(ユーザ数の少ない CMS からすればこれだけでも十分大きな数ですね)、 Drupal 7 に比べると物足りません。
Drupal 8 の採用が Drupal 7 よりも少なくなることは事前にある程度予測されていたにせよ、これだけ大きな差が開くことを事前に予想していた人は少なかったのではないかと思います。
今後の予測もしてみましょう。
直近の Drupal 8 の増加、 Drupal 7 の減少トレンドが直線的に続くという単純な仮定を措くと、 2022 年前後に Drupal 8 のサイト数が Drupal 7 の数を上回ります。 Drupal 8 は 2015 年にリリースされたので、そこから 6 - 7 年で前のバージョンを越えられる見通しです。
ただ、 Drupal 8 が依存する Symfony のリリースサイクル問題等もあるので、この頃には Drupal 9 がリリースされている可能性は十分あるでしょう。 その場合 Drupal 8 はその時点での絶対数で 7 を越えられないまま終わりを迎えることになります(知らない方のために補足しておくと、 Drupal 8 から 9 へのアップデートは現時点ではかんたんになる予定です)。
開発状況
Drupal 8 の開発には Drupal 史上最多の人々が関わったと言われています。 事実、 2014 年前後までは Drupal コアへのコントリビュータ数は増加していました。
次のグラフは Drupal コアのコミットログに記録されたユーザ名の数を月ごとにプロットしたものです。
1 ユーザは月内に何度登場しても 1 人とカウントしています(つまり述べ人数ではありません)。 太線は 6 ヶ月の移動平均です。
期間中に数百人のコントリビュータの名前がコミットメッセージに含まれたコミットが 1 つあり、それは内容的に例外だったので除外しました。具体的には次のイシューのコミットです(ちなみに私も @hgoto として含めてもらえています)。
これはあくまでコミットメッセージに記録されたユーザ名の集計でしかないという大前提のもとですが、コントリビュータ数は 2015 年頃までは勢いよく伸びましたが、 2015-2016 年をピークにその後は減少トレンドにあるように見えます。
手元にデータがありませんが、私の記憶が正しければ、ちょっと前まで Drupal.org で公開されていたプロジェクト全体の週あたりのコミット数も 2016 年頃から横ばいか微減になっていました。 もしコントリビュータ数とコミット数に正の相関があるなら、上のグラフは私の記憶と整合します。
一方、イシュー数について見ると、コアのオープンなイシューの数は近年は直線的に増加しています。 返答率については横ばいで、著しく落ち込んだりはしていないようです。
以上のことから、コントリビュータの絶対数やコミュニティメンバーの貢献率は依然不足しているものの、イシューの報告も貢献のひとつと考えると、開発に関わる人の数は減少傾向にあるものの開発の活発度はそう大きく落ちているわけではないと言えるでしょう。
検索
Google が Google Trends で公開している検索トレンドも見てみましょう。 これを Drupal の不都合な真実と捉える人もいるでしょう。
同じぐらいの検索規模のあるフレームワークとして、 Ruby on Rails 、 Laravel 、 CakePHP をいっしょに並べてみました。 Ruby on Rails や Laravel を知っている方は、このトレンドが実態をほどよく表していると感じられるでしょう。
Drupal について見ると、ピークは 2010-2011 年頃で、その後はほぼ一貫して下がり続けています。
ちなみに、日本国内に限定した場合のグラフは次のとおりです。
国内は海外に比べて Ruby on Rails の人気が高く Drupal の人気が低いということはウェブ業界の人であれば知っている人も多いですが、そのことが Google Trends のグラフにも表れています。 もしかした ら、ウェブ業界の方で Drupal に馴染みの薄い方だと「 Drupal は海外では Ruby on Rails に並ぶほどの知名度と人気がある(あった)」と聞くと驚く人も多いかもしれませんね。
ついでに Drupal 以外のところも見ておきましょう。 あくまで私の個人的な印象ですが、 PHP ベースの CMS の人気・シェアという点では WordPress が圧倒的で「 CMS といえば WordPress !」状態でしたが、フレームワークについては「 PHP のフレームワークといえば○○!」にあてはまるものが長年ありませんでした。 このグラフを見ると、後発の Laravel が世界・国内ともにどうやらその位置に収まったらしいことがわかります。
ただし、この Drupal のトレンドグラフには裏があります。 実は、( Drupal は PHP で書かれていますが) PHP 自体が 10 年以上にわたって一貫した下降トレンドにあります。
Drupal の下降トレンドはこの PHP 自体の人気低下の影響も受けていると言えるでしょう。
余談ですが、ここで比較対象の言語に Python / MATLAB / Perl をあげていますが、ここに深い意味はありません。 絶対数で PHP とちょうどいい比較になるプログラミング言語を探してきてたまたま見つけたのが Python / MATLAB / Perl だったというだけです。
ちなみに、 WordPress のトレンドは次のとおりです。
このグラフでは WordPress のピークは 2013 年頃ですが、 WordPress は現在も絶対数・シェアともに強い成長を見せています。 Google Trends のトレンドは存在するサイトの数ではなく人々の関心の量を表すので、実際のシェアに先駆けて動く先行指標として見るのがよさそうです(とはいえ、今の WordPress 人気が短期間のうちに終わるとは思えませんが・・・)。
ここまで確認した時点で、ふと「もしかしたら大体どんなキーワードでも右肩下がりになるのでは?」という根本的な疑問が浮かび(笑)、フロントエンドで最近人気のフレームワーク React ・ Vue.js のトレンドも見てみました。
しっかり右肩上がりでした(笑)
以上が Drupal の現状です。
ここまでのところをかんたんにまとめてみます。
- 利用数での Drupal のピークは Drupal 7
- Drupal 8 の利用は進んでいるが Drupal 7 に比べると非常に遅い